202012月4日

田村国際特許事務所

弁理士 田村 榮一

英国の欧州連合離脱の登録済みの権利への影響について

 さて、2021年1月1日に、英国の欧州連合から離脱のための移行期間が終了し、正式に欧州連合から離脱します。

 この影響により、英国は、2021年1月1日から欧州連合意匠権及び欧州連合商標権の保護の対象地域から除外されます。

 このため、英国は、権利者の不利益を最小限に抑えるため、2020年12月31日までに有効に権利が存続している欧州連合意匠権及び欧州連合商標権について、出願日や優先日、権利範囲等を同じくする、独立した同等の英国意匠権(以下「同等の英国意匠権」)並びに独立した英国商標権(以下「同等の英国商標権」)を欧州連合意匠権及び欧州連合商標権の権利者に与えるとしました。

 また、欧州連合を指定する国際意匠権及び国際商標権の権利者についても同様に、「同等の英国意匠権」及び「同等の英国商標権」を与えるとしています。国際意匠権及び国際商標権の指定国への追加ではありません。

 この度具体的な手続き等についてのガイダンスが2020年11月23日にありましたので、現時点で判明している情報についてお知らせいたします。

 

A.商標権について

1.離脱後の欧州連合商標権及び国際商標権の英国での保護について

 前述の新たに付与される「同等の英国商標権」は、2021年1月1日時点で権利が有効な欧州連合商標権及び欧州連合を指定国とする国際商標権を所有する全ての権利者に対して自動的に与えられます。

 「同等の英国商標権」を取得するための手続きは必要ありません。

 「同等の英国商標権」の登録番号は、欧州連合商標権の場合はUK009+欧州連合商標権登録番号」となり、国際商標権の場合はUK008+国際商標権登録番号下8桁」となります。

 また、「同等の英国商標権」については、移行期間終了から少なくとも3年間は、権利者は英国での住所又は居所、並びに代理人等について必要としない、として、3年の期間が経過した後については後程規定するとしています。

 なお、英国での権利が不要である場合には、付与の拒否を申請することができます。

 

2.更新期限の通知について

 「同等の英国商標権」については、英国特許庁から、更新期限の6月前に、更新期限の通知書が権利者に対し送付するとしています。この通知書は手続代理人に送付される可能性があります。

 なお、英国での権利が不要である場合には、「同等の英国商標権」に対する更新手続きは必要ありません。また、英国はマドリッド・プロトコルの加盟国ですので、国際商標権の事後指定が可能です。

2.1.欧州連合商標権及び国際商標権の更新期限が2021年1月1日から6カ月以内の場合

 欧州連合商標権の更新期限が2021年1月1日から6カ月以内の場合、英国での権利を維持するためには、欧州連合商標権や国際商標権ではなく「同等の英国商標権」に対して更新手続きを行う必要があります。

 この場合には、英国特許庁は有効期間の終了通知を行います。権利者は、この通知書の日付から6カ月間更新手続きを行うことができます。

 通知書の到達時点で権利の有効期間が終了している場合であっても、通知書に記載の日付から6か月間は、通常の更新料のみで権利の更新が認められます。手続期間内であれば遅延金の支払いは必要ありません。

2.2.欧州連合商標権及び国際商標権の更新期限が2021年1月1日から6カ月より後の場合

 この場合、英国での権利を維持するためには、「同等の英国商標権」の更新手続きを行う必要があります。

2.3.欧州連合商標権及び国際商標権の更新期限が2021年1月1日から6カ月より前で、なおかつ更新の延長期限が2021年1月1日から6カ月以内の場合

2.3.1.欧州連合商標権の場合

 この場合には、欧州連合知的財産局に対して通常の延滞納付の手続きを行うことで、「同等の英国商標権」についても権利の更新をするとしています。英国特許庁に対して通知は必要ありません。

2.3.2.国際商標権の場合

 この場合には、通常通りに国際商標権の手続を行ったあと英国特許庁に更新したことを移行期間の終了後(2021年1月1日)から9ヶ月以内に通知する必要があります

 通知は担当窓口のメールアドレス(WIPOrenewaltrademarks@ipo.gov.uk)へ電子メールを送信して行います。通知を行わなかった場合には、「同等の英国商標権」は出願または登録がなかったものとして扱われます。

 なお、場合によっては、「同等の英国商標権」に対しても更新登録料を支払う必要があります。

 

3.不使用による取り消しについて

 英国では、英国国内で最後の使用の日から5年以上継続して使用していない商標権は、英国での不使用による取り消しの対象となります。

しかし、「同等の英国商標権」については、202111日までに英国国内では5年以上使用していない場合でも、取消請求の日から5年以内の、20201231日までの欧州連合域内での使用の実績があれば「同等の英国商標権」について使用の実績として取り扱い、取り消しの対象としないとしています。

ただし、202111日以降の欧州連合域内の使用の実績は、「同等の英国商標権」の使用の実績とは認められません。202111日以降の英国国内での使用の実績が必要となります。

例を挙げますと、2021年12月1日に、英国内で5年以上不使用であるとして不使用による取り消しの請求があったとしても、2020年12月2日に英国以外の欧州連合域内で使用していた場合には取り消しとはなりません。

また、2022年6月1日に英国国内で5年以上不使用であるとして不使用による取り消しの請求があったとき、2020年12月31日まで欧州連合域内及び英国において5年以上不使用であって、2021年1月1日から英国以外の欧州連合域内で使用を始めたという場合には、「同等の英国商標権」は不使用による取り消しの対象となります。

なお、英国及び欧州連合域内で継続して5年以上使用していない場合には不使用による取り消しの対象となります。

 

4.「同等の英国商標権」付与の拒否(オプトアウト)について

 「同等の英国商標権」の付与を希望しない場合、2021年1月1日から、付与の拒否(オプトアウト)を申請することができます。「同等の英国商標権」付与の拒否の申請を行った場合には、英国での商標権は初めから存在せず、出願もされなかったものとして取り扱われます。

 ただし、英国国内で侵害訴訟やライセンス契約等、商標権を使用している場合には、「同等の英国商標権」の付与を拒否することはできません。

 

5.訴訟手続きについて

 5.1.係属中の裁判手続きについて

 2021年1月1日までに係属中の英国の裁判所が管轄する欧州連合商標権に関する裁判手続きについては、2021年1月1日以降も英国の裁判所に係属します。

 5.2.裁判所の差止命令について

 2020年12月31日までに出された欧州全域を対象とする差止命令は、2021年1月1日以降も「同等の英国商標権」によって有効となります。

 2021年1月1日以降に出された欧州全域を対象とする差止命令は、英国は対象となりません。個別に対応する必要があります。

 


 

B.意匠権について

1.離脱後の英国での欧州連合意匠権及び国際意匠権の英国での保護について

 意匠権につきましても商標権と同様に、自動的に「同等の英国意匠権」が付与されます。

 この「同等の英国意匠権」を取得するための手続きは必要ありません。

 この「同等の英国意匠権」の登録番号は、以下のようになる予定です。 

 

国際意匠権登録番号(国際事務局(WIPO)データベースの表示)

欧州連合意匠権登録番号 (EUIPOデータベースでの表示)

「同等の英国意匠権」の登録番号 (英国特許庁登録番号及びデータベースでの表示)

単独意匠

DM/069 640

D069640-0001

806964000010000

複数意匠の1つ目

DM/069 629

D069629-0001

806962900010000

複数意匠の2つ目

DM/069 629

D069629-0002

806962900020000

欧州連合意匠権登録番号の先頭の「D」が「8」になり、「-」が削除され、末尾に「0000」がつくこととなります。なお、変更となる場合があります。

 

2.更新期限の通知について

 「同等の英国意匠権」について、英国特許庁は、更新期限の6カ月前に、更新期限の通知を送付するとしています。この通知書は手続代理人に送付される場合があります。

 英国意匠権の権利期間は欧州連合意匠権と同じく登録日から5年で、最長25年まで更新することができます。

 

2.1.更新期限が2021年1月1日から6カ月以内の場合

 欧州連合意匠権の更新期限が2021年1月1日から6カ月以内の場合、英国での権利を維持するためには、更新手続きは国際意匠権や欧州連合意匠権ではなく、「同等の英国意匠権」に対して更新手続きを行う必要があります。

 この場合には、英国特許庁は有効期間の終了通知を行います。権利者は、この通知書の日付から6カ月間更新手続きを行うことができます。

 通知書の到達時点で権利の有効期間が終了している場合であっても、通知書に記載の日付から6か月間は、通常の更新料のみで更新が認められます。遅延金の支払いは必要ありません。

 2.2.更新期限が2021年1月1日から6カ月より後の場合

 この場合、英国での権利を維持するためには、「同等の英国意匠権」の更新手続きを行う必要があります。

2.3.更新期限が2021年1月1日から6カ月より前で、延滞納付の期限が2021年1月1日から6カ月以内の場合

2.3.1.欧州連合意匠権の場合

 この場合には、欧州連合知的財産局に対して通常の延滞納付の手続きを行うことで、「同等の英国意匠権」についても権利の更新をするとしています。「同等の英国意匠権」について更新登録料を支払う必要はありません。

2.3.2.国際意匠権の場合

 この場合には、通常通りに国際意匠権の手続を行ったあと英国特許庁に更新したことを移行期間の終了後(2021年1月1日)から9ヶ月以内に通知する必要があります

 通知は担当窓口のメールアドレス(renewaldesigns@ipo.gov.uk)へ電子メールを送信して行います。通知を行わなかった場合には、「同等の英国意匠権」は出願または登録がなかったものとして扱われます。

このとき、「同等の英国意匠権」について、国際意匠権の更新料とは別に更新料を支払う必要はありません。なお、次回以降は、「同等の英国意匠権」を維持するためには、通常通り更新手続が必要となります。

 

4.「同等の英国意匠権」の付与の拒否(オプトアウト)について

 「同等の英国意匠権」は、2021年1月1日から、付与の拒否(オプトアウト)を申請することができます。「同等の英国意匠権」の付与の拒否の申請を行った場合には、英国での意匠権は、出願されなかったものとして取り扱われ、権利も初めから存在しなかったものとなります。

 「同等の英国意匠権」の付与の拒否について、2020年12月1日現在放棄することができない条件は公開されておりません。通常の英国意匠権と同様に取り扱われると思われます。

 

C.欧州特許権について

 欧州特許権につきましては、根拠となる条約が「欧州特許の付与に関する条約」であり、今回英国が離脱する欧州連合の関連条約とは無関係の条約ですので、今回の英国の欧州連合離脱の影響を受けません。

 

以上、ご連絡いたします。

参考資料ウェブページURL

英国特許庁Brexitガイダンスより欧州連合意匠権について

https://www.gov.uk/guidance/international-eu-protected-designs-after-brexit

英国特許庁Brexitガイダンスより欧州連合商標権について

https://www.gov.uk/guidance/eu-trademark-protection-and-comparable-uk-trademarks